共創学 7巻 1号 (Cocreationology, Vol.7, No.1)
原著論文
箱庭療法のセラピストの見守りに関する一人称研究の試み – 実験状況における箱庭制作場面の質的分析 –
石原 宏,秋本 倫子,伊藤 淳子
Vol. 7, No.1, pp.1-9, 2025/6/17
概要:クライエント役(Cl)とセラピスト(Th)による模擬的箱庭療法の1セッションにおいて,ウェアラブルNIRS(near-infrared spectroscopy)装置を用いて両者の前頭葉の脳活動を同時計測した実験データのうち,約10分間の箱庭制作について,Thとして当セッションに参加した第一著者の一人称視点から質的分析を行った.箱庭制作場面の見守り方について,Thの自己認識と,実際の見守りに存在したズレに着目し,Clの表現に「ついていく」という言葉だけでは包含できない見守りの様相を記述することが可能となった.本稿での分析からは,箱庭療法のThが,Clの表現に直接手出しや口出しをしないという意味であくまでClファースト に「ついていく」のではあるが,決してそれだけではなく,今まさにClによって生み出されようとしている表現を,現在と未来のはざまで先回りや予想も含めてTh自身の心を動かしながら,楽しみに待ち受けていると言えることが考察された.
キーワード:箱庭療法,セラピストの見守り,一人称研究,臨床心理学