2017/10/14

第2回共創学研究会「共創をめぐる実践知へのアプローチ」 開催報告

第2回共創学研究会 「共創をめぐる実践知へのアプローチ」
日時:2017年9月9日(土)13:30〜18:00
場所:早稲田大学 西早稲田キャンパス 55号館N棟1階第2会議室

企画・司会:中村美亜

 第2回共創学研究会では、パネルディスカッション形式で個と個の関わりから現れ出る「共創」にアプローチする学術的方法について議論した。研究会では、まず司会の中村が趣旨説明として、宮地尚子の「環状島」のメタファーを紹介しながら、「共創」について語る際の論点を確認した。その後、3人のパネリストによる発表が続き、後半にはパネリストどうしのクロストークやフロアを交えてのディスカションが繰り広げられた。


1. 共創と二人称関係

諏訪 正樹(慶應義塾大学環境情報学部 教授)

 共創について語るためには、従来の三人称(客観的観察者)視点とは異なる、新たな視点が必要である。本発表は、共創という現象の根底には「二人称関係」があるのではないかという仮説を立てるものである。二人称関係とは、互いに独立する2つの個体が互いに密なやり取りを交わしているというだけの関係ではなく、互いに、相手の体感や思考回路の一部が自分ごととして伝わる関係ではないかと考えている。相手をあたかも自分の一部であるかのように感じる、その内容は、両者側で完全に一致しなくてもよい。互いが感じていることに、ある程度以上のオーバーラップがあれば、二人称関係が成立する。そして、二人で一つのシステムが形成されている。
 例えば、長年連れ添った夫婦は、相手の心の内を推し量りながら会話を生み出す。サッカーでゴール前に素晴らしいパスが成立するとき、パスの出し手と受け手の間にも、二人称関係が成り立っている。パスの受け手Rは、パスの出し手Pの身体動作を見て、Pの身体で生じているであろう体感を自分ごととしてゾワッと感じるからこそ、受け手として動き出すタイミングと方向が、手に取るようにわかるのではないか。パスの出し手Pも、同様に、Rに対してそのように感じているからこそ、パスを適正なタイミングで適正な位置に出せる。
 ふだん無意識のうちに行っている動作とその時の体感を、自分なりに言葉を使って表現する(「からだメタ認知」と称する認知的行為)という習慣は、自分の身体だけではなく、相手の体感をも敏感に感じ取る力を育むことにつながる。共創という現象を二人称関係という視点から探究することには意義がありそうである。

2.「共創表現ファシリテーション—アクチュアリティの水脈」

西 洋子(東洋英和女学院大学 教授)

共創学が向き合う実践的課題として,共創を成立させるファシリテーションのはたらきへの接近がある.異質な他者が出会い,差異は差異のままとして,相互に主体性を発揮し創造へと向かう際,そこでの,ふれあうことや促しあうこと,引き出しあうこととは,何から生じ,どのように進行するのであろうか.本発表では,発表者自身の実践(精神科入院病棟や肢体不自由児・者,発達障害児・者を含む身体表現)を取り上げ,ファシリテーションの際に際立つ「いきいきとした感じ」の現場での様相を,「風(いきいきとした感じ)はわたしになる」を起点に,自他と環境に同時的に生成・進行する世界におきかえ,共有し議論することを試みた.

3.「共創の場のデザイン—からだの外と内の知見をつなぐ」

中村 美亜(九州大学大学院芸術工学研究院 准教授)

 1990年代以降、美術や音楽の分野においても、一般の人を巻き込んだアートプロジェクトや即興音楽創造の場面で「共創」がテーマとなっている。アーティストと参加者の関係、創造と協働の関係などの議論が活発にされている一方で、理論的な探求はほとんど行われていない。本発表では、社会学などによる「からだの外」に関する知見(コミュニケーションの考え方、アフォーダンス)と、認知科学による「からだの内」による知見(共感、刺激に対する反応条件)を紹介し、それらをつなぐ可能性のある概念(メタナラティブ、語りなおし)を提示した。


 発表直後にはフロアから、(諏訪に対して)2人称関係の失敗、(西に対して)「わかってくれてありがとう」と言われたことの意味、(中村に対して)「アフォーダンス」概念を用いることのリスクなどに関する質問や意見があった。

 後半のディスカッションでは、前半の質疑の内容をさらに深めていく他、体験を言葉化することの問題などが議論された。

 その中で、諏訪は、共創について語ることの重要性は、そこで起きたことを正確にモニタリングするのではなく、次につながるための知の集積を行うことである点を強調した。また、言葉化をするのはアプローチの基本となるが、その言葉にとらわれるのではなく、つねに体の感覚に立ち返りながら、言葉と感覚を対話させながら理解を深めていくことが肝心であるという点についても確認された。「こんにゃく問答」について深く考えてみることも面白そうだという話もあった。

 西は、身体表現の実践をする度に何が起こったかを振り返っていること、また、そのプロセスの一部を切り取り、科学的な実験も複数試みているが、そこから理論を導き出していくことは容易ではないと述べた。議論では、西は参加者が自由に自発的に表現を行なっていると言っているが、(それは紛れもない事実だと思うが)そこに現れるのは西の世界観であることを考慮するなら、西のファシリテーターとしての特別な役割について積極的に分析するアプローチがあってもよいのではないかという議論があった。

 中村の発言内容に関しては、「アフォーダンス」だけでなく、「翻訳」「パターン化」「モデル化」等の言葉を用いてコミュニケーションをする際の難しさがクローズアップされた。中村自身は、外部観察的な意味ではなく、むしろ内部観察的な観点から「コツ」(実践知)のようなものを抽出しようとしていたが、その部分を伝えるのに時間を要した。また、それらに言及しながら議論を進めていくことにも困難が伴った。中村自身が司会をしていたこともあり、これらをあまり深められずに終わったのは残念であった。

 第2回の研究会では、共創について語る視点(2人称の視点など)、共創について語る語彙(アフォーダンスなど)がいくつも登場した。その一方で、内部観察的な視点から議論を続けることの困難さも実感した。参考となる概念やコミュニケーションが困難な点をリスト化し、蓄積していくことで、次第に共創を語るアプローチ(言葉や論理)が体系化されていくのではないかと感じた。

(発表要旨以外の文責:中村美亜)